『ファクトに基づき、普遍を見出す』の備忘録
高橋洋一さんの本はこれで何冊目だろうか。KindleUnlimitedの真価を、この数日しみじみと感じている。今回は、ちょっと抽象的なテーマの本。あえてラベリングするなら、「情報収集力」を磨く本に当たる。
高橋さんの本は、いつもタイトルだけで内容が伝わる。この本はその典型例で、書いてあることは「ファクトに基づいて情報を取ろう。そうすればフェイクニュースやいい加減な言説に振り回されずに済む」。ファクトとは、実際に起こったこと。トランプが大統領だった時によく耳にした「フェイクニュース」とは、事実とは異なる情報のこと。つまり、ファクト(事実)をあるがままに見ることができたら偽の情報を掴まずに済む。しかし、情報は実際に起こった「事実」と誰かの感想「解釈」がごちゃ混ぜになっていることがほとんど。この本でも「数字は事実だが、そこから言えることはデタラメ」といった言い回しが数多くみられる。
「世界を正しく捉える」ためには、「ファクト」と「解釈」の両方を正しく捉える必要がある。まずは、ファクト。これは、本書のキーセンテンスが全てを言い表している。
川を上り、海を渡れ
出典:『ファクトに基づき、普遍を見出す 世界の正しい捉え方』(高橋 洋一 著)
「川を上る」とは、過去にさかのぼること。「海を渡る」とは、海外の事例を見ること。つまり、時間的な広さを持つタテ軸と、空間的な広さを持つヨコ軸的な視点を持てということ。例えば、消費税増税。タテ軸で考えると過去10年ペースで増税した過去がある、続いてヨコ軸で考えると主要国も近年増税している。これだけ見ると、「増税して当然」という結論に至りそうになる。しかし、消費税そのものについてのファクトも見なければいけない。タテ軸で見ると消費税を導入・増税した後日本経済はいつも後退してきた、ヨコ軸で見ると海外の経済学者はいずれも日本の増税を批判していること、消費税の使い道が日本だけ違うことなどが見つかる。「消費税増税」という文脈で見たファクトと「消費税」で見えるファクトは真逆とも言える。前者は結論ありきの浅い検証であり、やるべきは後者。人間はみたいものだけを見る。「消費税は必要で、且つ増やさないといけない」という前提で見えるファクトだけに基づくと、普遍を見いだせずに誤った結論を導き出しかねない。
本書では、誤ったかたちで結論づけられる複数の事例が紹介されている。誤った結論とファクトに基づいた結論、両者を分けるポイントを紹介しよう。
事例 | 誤った結論 | ファクトに基づいた結論 | 両者を分けるポイント |
「老後2000万円不足」問題 | 年金制度が破綻する |
年金制度の破綻はほぼない |
・一般家計の貯蓄額(ファクト)を見ていない ・「老後2000万円不足」に隠されたシナリオを読めていない |
年金は福祉事業 | 年金は国の財源(税金)で賄われいてる | 年金は保険の一つ | ・年金の本質を理解していない |
あいちトリエンナーレ2019 | 「表現の自由」が踏みにじられた | 公的な資金の使われ方に問題あり |
・出資者(ファクト)を見ていない ・芸術文化の特性を理解していない |
ふるさと納税の返礼品 | やりすぎた自治体が悪い(総務省がダメと言うのだから仕方ない) | 返礼品の帰省を決めるのは、地方自治体 | ・ふるさと納税の本質を理解していない |
かんぽ生命の詐欺行為 | お年寄りを騙すのは最低、業務停止はあたり前 | 日本郵政の体質に問題あり |
・保険市場の動向、商品内容を見ていない |
消費増税は悪 | 日本の将来のためには仕方ない | 消費増税は自傷行為 |
・財政状況を見れていない ・消費税の役割を理解していない |
ヨーロッパは20%以上 | ヨーロッパもやっているのだから仕方ない | 重要なのは「税率」よりも「使い道」 |
・ヨーロッパしか見ていない ・徴税の本質を理解していない ・消費税の役割を理解していない |
国債発行はダメなこと | 「国債=借金=悪い」 | 国債発行は景気回復の解決法 |
・国債発行の意味を理解していない ・いまの金融市場を理解していない ・今の日本経済に必要なものを理解していない |
ファクトを見誤る大きな要因が、「わたし(個人)」を主語に考えてしまうこと。財政政策や金融政策を一個人の経済感覚で考えると、「借金(国債)は悪」「金利が低い(マイナス)は悪」「貿易赤字は悪」という結論に至る。借金は資金調達するための手段であること、マイナス金利は簡単に資金調達できる環境であること、貿易赤字はモノが売れないとは限らないことなど、「マイナス・赤字・借金は、悪い」という結論ありきの前提に立っている以上、一生真実にたどり着くことはできない。
ニュースで流れてくる政治や経済、外交の話が日常生活に直接影響することは少ない。影響しているのかもしれないが気づくことなく終わる。それに分かったところで、決めるのは政治家だからどうしようもないと考えてしまう。しかし、「ファクトに基づき、普遍を見出す」力は、仕事や家計運営などでも求められる。自分に慣れ親しんだ言説にすがり結論ありきでしか考えられない人は、誤った結論を出す危険性が高い。そんな人に仕事を任せたいと思うだろうか。そんな親に子供は憧れるだろうか。