Unlimitedに上機嫌

「お金はかけずに学びたい」をコンセプトに、年間300冊を読む無職がPrimeReading対象本を紹介するブログです。

今のエンタメは「生乾き」にあり

某ラジオ番組で、「自分たちのラジオは毎週生乾きをお届けしているようなもの」という発言があった。その発言の前に、パーソナリティの一人が、以前相方が話していたことを他の2人に話していた。彼はその日に着たい服をクリーニングに出していた。夕方5時に仕上がれていたので、時間通りに店に行った。しかし自分の服はまだ仕上がっておらず、そんなこと自分たちの仕事では許されないというエピソードを単独ライブで話したそうだ。熱っぽく語す相方に、「俺たちも生乾きを出しているようなもんだけど」とツッコみ「確かにな」とリアクションが返ってきたそうだ。そのエピソードを受けて、「自分たちのラジオは毎週生乾きを提供しているようなもの」に至る。

生乾き。クリーニング屋に出した服が、乾いておらずシワシワで返ってくるのは嫌だ。しかし、「生乾き」は必ずしも悪い意味だけはないように思う。場合によっては、「即興」や「ライブ感」などポジティブな意味に捉えられるケースもある。例えば、大喜利笑点IPPONグランプリも、いわば「生乾き」的コンテンツ。数分で考えたとは思えない完成された答えがほとんどだが、中には大スベリするものもある。しかし、そうした当たりはずれが深みとなっている。

近年のエンタメは、「生乾き」がキーワードになっているとさえ感じる。それまでのテレビが届けたエンタメは、華やかなセットに豪華ゲストを入れ、編集や加工を駆使した「完成された」コンテンツ。しかし、スマホでエンタメを楽しむ時代に移行し素人がコンテンツを届けるようになった。これまでは「規模」で魅了するスタイルから「こじんまりさ」や「ライブ感」で差別化が図られるようになる。テロップや音楽などの編集技術も大切だが、即興で楽しませるトークや視聴者と一緒に企画を作っていく構成力を持つ人(チャンネル)が生き残っているように感じる。

「生乾き」的な魅力を持つコンテンツとして、2つのYouTubeチャンネルを挙げたい。1つ目は、「さらば青春の光」だ。個人事務所に所属するコンビが運営するチャンネル。

www.youtube.com

彼らは、カメラが回ってから作っていくのが特徴。企画の趣旨を聞かされていない2人が、作家やディレクターの前置きから少しずつ企画を意図やルールを作っていく。一般人を巻き込んだ企画も多く、企画がスタートしてから参加者を募ることがほとんど。「事前に準備すればもっとおもしろくなるのに」と考えることもあるが、少しずつコンテンツが仕上がっていくライブ感が彼らの最大の魅力。また、テレビでは見れない作り手と演者の境界線があいまいな点も人気な理由だろう。マネージャーの山根さんや作家の「なべちゃん」、専務のネコなど、裏方の方たちに言及するコメントも数多くみられる。

もう1つは、タイムマシーン3号YouTubeチャンネル。太田プロ所属の2人がロケや山本家を舞台に企画を行うチャンネル。

www.youtube.com

タイムマシーン3号の2人とスタッフ1名(通称「黒ギャル」)の3人で運営を行っている。編集技術はお世辞にも上手とは言えない。テロップの誤字は多いし、BGMの音楽も2パターンしかないなど、アマチュア感まるだし。しかし、それが彼らを身近に感じられる重要な要素でもある。ある動画で運営スタッフの公募を行っていたが、個人的には今の体制で続けてほしい。タレントである芸人が編集作業をしないといけないなど、テレビの常識から逸脱しているが、3人で作っているという背景が広く愛される要因だと思う。企画はボケ担当の関が考えているようで、アイディアセンスが光るものばかり。「○○してみた」シリーズはダジャレなのだが、二人の個性がマッチしていて絶妙に笑える。どの動画も、家と車内風景がほとんどを占めていて華やかさは全くない。しかし、日常的な背景だからこそ彼らのやり取りが映える。動きのないドライブ中は2人の漫才を聞いているようで、音だけでも十分に楽しめる。中年の2人(時に3人)がただじゃれ合うだけの動画なのだが、これほど脱力して笑わせてくれる、「生乾き」的魅力の詰まったコンテンツは他にない。