Unlimitedに上機嫌

「お金はかけずに学びたい」をコンセプトに、年間300冊を読む無職がPrimeReading対象本を紹介するブログです。

『日本を救う最強の経済論』著:高橋洋一

高橋洋一さんが書いた本の中で、総仕上げ的な内容となっているのがこちら。

全5章構成で、各章の内容は以下の通り。

  1. 戦前以後の日本の経済史
  2. バブル期の経済
  3. 経済主義VS財政主義
  4. 金融政策と経済
  5. 日本の未来図

本書は2017年に発刊されたもので、本書における「いま」は2015年前後を指している。第一章では、主に高橋是清がいかに優れた政治家であったのか、が書かれている。備忘録として、第1,2章の小見出しから内容を備忘録として書いていこうと思う。

世界的にはケインズより評価されている

ケインズはイギリスの経済学者で、20世紀における最重要人物とも称される偉人。『雇用・利子および貨幣の一般理論』などの著書を残し、亡くなって50年以上経つ今も彼の理論は重視されている。そんな大経済学者以上に評価されているのが、高橋是清。1930年代に大蔵大臣や首相を務めた人物で、日本が世界恐慌から経済復興をいち早く果たせたのは彼のおかげだそうだ。彼が行った政策は、日銀による国債の直接買い入れ。現在では御法度とされている金融緩和政策の一つで、日銀が国債を直接買い入れることで政府にお金が入る。そのお金で、政府は公共事業を積極的に行い、雇用が生まれ、インフレを誘引したというもの。

失敗だった浜口雄幸の金解禁

世界恐慌の前に首相を務めた浜口雄幸は、金の輸出禁止を解いた。当時の金本位制では、現在のようにお金の量を調整することができない。金の総量は世界で決まっているので、当時はどの国も金を国外に流出するのを恐れ禁じた。しかし、浜口政権は金解禁の政策をとった。その結果、輸出が縮小し、国内に深刻なデフレをもたらした。つい30年前までは、浜口雄幸は日本の英雄とされていたらしい。

現代でも参考になる高橋是清の経済政策

同じような経済的インパクトを受けた時、どのような経済対策をとるかで、経済回復が決まる、ということが分析によって明らかになっている。1930年の世界恐慌によって日本がいち早く回復できたのは、当時のリーダーである高橋是清が取った経済政策が良かったことによる。当時はどの国も金本位制を取っていた。貨幣通貨制と違い、総量を操作することができない。それは自国に供給する貨幣を調整することができないことを意味し、物価の安定が図れない。高橋は金輸出の禁止を行い、積極的な財政出動を行いデフレの脱却を実現した。

高度成長が達成できた本当の理由

日本は、1960年代に成長率10%を実現した。その要因としては、日本人の勤勉さと技術力の高さが挙げられる。しかし、それは本質ではない。著者は、高度成長は円安環境にあると仮説を立てている。つまり、輸出が伸びる環境があったことが高度成長を促したということ。1985年までは1ドル=360円という固定相場制が敷かれていた。戦後から約20年間、輸出で儲かる環境が整っていたことになる。それは偶然による産物で、好景気の続いていたアメリカが適当に決めたと解釈するのが妥当。いくら輸出に有利な環境があっても、モノが良くなければ外国は買ってくれない。60年代に入って、飛躍的に日本企業の技術力が向上したとは考えられないから、円安という好機を捕えられたのは、間接的だが戦争による生産力向上もあったかもしれない。

なぜ、いきなり低成長となったのか

バブル崩壊の処理を誤ったため、90年代後半から「失われた20年」を過ごすことになる。バブル期を数字で見ると、失業率・物価上昇率ともに2%で「理想の経済」だったと言える。本書では、バブルは「金融資産の上昇」と定義されている。つまり、異常に上がったのは、株や不動産のみで、それ以外は極めて良い状況にあった。バブル崩壊を受けて日銀が取った政策は、金融引き締め。世の中のお金を吸い上げることで、金利の上昇、円高を引き起こした。お金の量が減り価値が上がることで、物価が下がる「デフレ」を招いた。これにより、それまで順調に上昇していた物価を殺すことになった。

好調だったバブル期の経済

日本が変動相場制になったのは、1980年後半。それまでは輸出の追い風となる、円安環境が続いていた。しかし、1985年のプラザ合意によって、急激な円高が進んだ。変動相場制では、2国間の交換比率によって為替が決まる。日本円の総量が増えれば、相対的にアメリカドルの総量が減り、円安ドル高になる。変動相場制が機能し始めた2年後から、日米のマネタリーベースと円ドルの推移がほぼ重なる。つまり、80年代後半から金融政策次第で、為替はある程度コントロールできるようになった。

世界でも異例な90年以降のGDP横ばい

90年以降、日本のGDPはほぼ横ばいを推移している。対する税収は、右肩下がり気味の横ばいで推移している。なぜ、90年代以降成長しなくなったのは、マネーストックの推移に関係がある。マネーストックは、名目成長率やインフレ率と関係があるが、バブル崩壊以降マネーストックはほとんど増えていない。お金を増やせば経済成長できるという単純な相関関係があるにも関わらず、「失われた20年」では正反対の金融引き締めが取られ続けていた。

なぜ資産価格が上昇したのか

本書では、バブルは証券会社の営業マンによって引き起こされたと説明する。当時、税制上の抜け穴を利用した「財テク」が横行していた。財テクとは、企業が資産を増やそうとする行為。財テクと同時に、薄価分離の仕組みを利用した営業トークがなされていた。つまり、「うちに任せてもらえば、資産も増えるし節税もできますよ」ということが頻繁に行われていたということ。また、証券会社に運用を一任するということも横行していた。資産を増やしたい企業や投資家からすれば、損失保証や高い利回りが期待できるため、ドンドンお金を証券会社に預けるようなった。運用を任された証券会社は、高速で利回りの高い商品を買いまくる。対象となったのが、株や不動産。日々右肩上がりに伸びる株価を見れば、資産増大のチャンスと手を出す人も増える。こうして、資産価格だけが高騰する状況が生まれた。

 

この本で学んだのは、経済は人によって作られるということ。高橋是清という優れたリーダーがいる時は経済復興ができるし、政治家がくだらない争いをしている時は経済低迷する。こんなことを言ったら元も子もないが、実際に世界は一部の人によって方向性が決められるという真理にたどりつく。国や世界の行く末を予想するうえで、方向性を決めるキーパーソンを理解するということは重要だと言えそうだ。