Unlimitedに上機嫌

「お金はかけずに学びたい」をコンセプトに、年間300冊を読む無職がPrimeReading対象本を紹介するブログです。

1歳児が教えてくれた、「おもしろいから」だけでいいじゃん。

年末に幼馴染の子どもと過ごした経験は、とても印象的だった。急に泣き出すことも、両方初対面なのに女性にすぐになついたことも、彼の行動の全てが興味深かった。中でも、一緒にお絵描きをした時間はよく覚えている。スライドすると消える黒板みたいな、アンパンマンのハンコがついているおもちゃ。自分の家にもあったと懐かしみながら、彼の大好きなアンパンマンを書いてあげた。「アンパンマン」と口で紹介してあげると、彼は嬉しそうに自分が書いた絵に線を書き込む。絶望的な絵心ながら一生懸命に書いたのに、どうしてそんな酷いことをするのだろうと思いながら、消しては描くというのを何度か繰り返した。時間をかけて描いても汚されるので、いつの間にか自分から描くのを辞めた。しかし、あの行為には意味があったのではないか、とこの本を読んで思った。

副題には「芸術認知科学」なるお堅いワードが含まれているが、とても読みやすい。主にチンパンジーを被験者とした、実験結果が紹介されている。タイトルにある「ヒトはなぜ絵を描くのか」は、本書の第4章のタイトルになっており、答えは「おもしろいから」と書かれている。小学生でも分かりそうなシンプルな理由。しかし、自分が描いた絵に線を書き込まれたあの時は、1歳児が「おもしろいから」という理由でペンを動かしていたとは考えもしなかった。本書では、以下のような記述がある。

子どもたちのなぐり描きは、紙の上に何かを表現しているというより、身体的な探索の痕跡

出典:『ヒトはなぜ絵を描くのか――芸術認知科学への招待 (岩波科学ライブラリー)』

「身体的な探索の痕跡」を分かりやすく言うと、「自分がどうペンを動かすとどんな結果になるのか」ということで、なぐり描きをする子供は自分の行動と結果に興味津々だということだ。つまり、あの時自分が描いたアンパンマンに線を描きこむ彼は、自分の行動がアンパンマンにどんな変化をもたらすのかに興味深々だったということになる。つまり、彼の中では隣の男性が描いたアンパンマンは完成形ではなく、手が加えられるべき対象だったということだ。本書のおかげで、あの時の「汚される」という考えは自分だけのもので、1歳児は全く別の考えを持っていたということになる。

自分はめったに絵を描かない。学生時代を振り返っても、どれだけ暇な授業でもノートや教科書に落書きをした記憶がない。美術は大嫌いな授業の一つだった。特に、自由に絵を描けと言われた時は、悩みに悩む苦痛の時間だった。なぜなら、自分は絵が下手だと思い込んできたからだ。芸術認識科学的にいえば、「身体的な探索」を楽しめなかったからだ。「自分がペンを動かすことで、紙にはどのような結果が表れるのだろう」という妄想を楽しめない。表現したいイメージがないわけではない。毎日のように、ブログを書いているし、普通の人よりも歌やダンスで表現することが多い。文章も、歌もダンスも決して上手い、得意だとは思っていない。ただ表現したいと考えてからアクションを起こすまでのギャップが少ないだけ。では、なぜ絵を描こうとしないのだろうか。それは、恥ずかしいから。描こうとする動機「面白いから」と描こうとしない動機「恥ずかしいから」を天秤にかけると、ほぼ毎回描こうとしない動機が勝つ。だから、めったに絵を描かない。描こうとする時がないことはない。しかし、そのたび「恥ずかしいから」で上塗りされて描こうとする好奇心が消される。大変もったいないことのように思えてきた。

あの日1歳児が教えてくれたのは、「おもしろいから」だけで十分じゃないか、ということだったのだと思う。いつの間にか記事を公開することに抵抗を覚えなくなったように、描き続けていれば「恥ずかしいから」というノイズも消えていくのだと思う。描きかけの原稿を挙げる某人気漫画家のように、毎日ツイッターに絵をあげていこうかな。