Unlimitedに上機嫌

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なぜ、ネタ番組の「サクラ」は必要でラジオ番組の「サクラ」は不要だと感じるのか

最近は、暇つぶし方がYouTubeからPodcastに移行しつつある。良いことだ。Podcastでも、「何か面白いものないかな~」という無駄な時間があるが、YouTubeのように意味のない半日を過ごしてしまったということは今のところない。

人気ランキングというものは、ビギナーの道しるべだ。これまで定期的に聞いていた芸人ラジオ以外を聞こうと思った時、まずランキングを覗く。Podcastユーザーになって、約1週間。人気ランキングの1ページ目に出てくるものは、だいたい聞いた。その全てを聞き続けようとは思わないが、『歴史を面白く学ぶコテンラジオ』や『アンガールズのジャンピン』など新しいお気に入りコンテンツにも出会えた。

「お試し視聴」をしていた中で、1つ気になったものがある。結局5分ほど聞いて今後聞くことはないだろうと決意したのだが、その理由は「聞き手の笑いが胡散臭いから」。1人でパーソナリティを務めるラジオ番組などでは、ブースに作家やディレクターが入り聞き役となるケースがある。目の前に聞き手がいる方が話しやすいだろうし、『佐久間信行のオールナイトニッポン』や『福のラジオ』などを聴くこともあるので、ブースにいる同席者の笑い声が時折聞こえることには慣れている。しかし、5分ほど視聴した番組のそれは、あまりに大きくわざとらしい。息継ぎをする全てのタイミングで、同じような笑い声が聞こえるので録音した笑い声を流しているのかと疑った。しかし、笑いが起こるのはパーソナリティが笑いを誘ったパートだけであること、よく聞くと微妙にに毎回違う。生の人間のリアルタイムなリアクションであると分かってからも、不快感は拭えない。

これと全く正反対の例を知っている。ネタ番組だ。コロナになって劇場に人を入れられなかった頃から、YouTubeでは無観客のネタ動画が流れるようになった。無地の背景をバックに、芸人が画面の向こうの客を笑わせようとする動画。ほとんどの動画は、笑い声は入っていない。間を重視するコント系の漫才などでは、動画が止まったのかと勘違いしてしまう。「笑い声がないネタで笑わせられるのが一流」なんてことを言うお笑い通がいてもおかしくなさそうだが、観客を入れたネタ番組とまったく同じネタでも無観客の動画ではあまり笑えない。

「人の笑いで冷める」と「人の笑いで笑う」という対照的な2つの事例。世間が言うところの「サクラ」にあたると思うのだが、この両者のサクラにはどうような違いがあるのだろうか。この点について、最近本でかじった「行動経済学」の観点を交えながら考えてみようと思う。

サクラの正体

一般的に「サクラ」と呼ばれるものは、ハーディング効果を狙った仕掛けであると言える。ハーディング効果とは、単独で下す合理的な判断や決定よりも周りの人が下すものに安心感を覚え周囲と合わせる、人間の特性を言う。

身近な例で言うと、信号。普段は信号を守る歩行者がいるとする。しかし、人通りが少なく明らかに車が来ていない幅の狭い信号を、赤で向こうから渡ってくる人を見る。信号無視する人が1人である時は、ルール通り赤信号で停止するかもしれない。しかし、平然と赤信号で渡る人が5人に増えたら、どうだろうか。10人、20人、100人に増えたら?数は個人差があるが、どんな人でもどこかのタイミングで周囲の人と同じ「赤信号でもわたる」という行動をとる。

ハーディング効果のハーディングは、「群れ」の意味を持つ”herd”から来ている。「群れ」という言葉が表すように、誰かの意思決定に影響を与えるにはある程度の数がないといけない。先ほどの信号の例でも挙げたが、信号無視をする人が1人では同調効果は薄い。いくつ以上を「群れ」とするかはケースバイケースだろうが、行動を変えるためには「たくさん」という印象を与える必要がある。

冒頭に書いたラジオ番組の「サクラ」は、ハーディング効果には当たらない。笑いを発声させていたのは1人だからだ。対して、ネタ番組についてはハーディング効果に関係ありそうな気がする。テレビのネタ番組では、少なくとも30人ぐらいの観客がいる。MCやディレクターなどに操作されていると感じるケースもあるが、「多くの人が笑っている」という刷り込みには成功しているケースが多い。昔イロモネアという番組があった。芸人が5つのお題でランダムに選ばれた観客を笑わせたら賞金がもらえるという番組。回を重ねるごとに笑わせないといけない人数も増える難度の高いものだが、ランダムに選ばれた人たちは周囲の人たちの笑いに引っ張られて笑ってしまうというケースが結構見受けられた。自分では「そうでもないな」と思い我慢できても、周りの人たちは大爆笑をしている。それを目にすると、「面白いんじゃないか」と思えてくる。結果、笑ってしまう。芸人も観客も誰が選ばれたのかが分からない。テレビを見る側からすれば「あの5人を笑わせるネタをしろ」と思うが、実際にやるべきことは「多くの人を笑わせること」。「多くの人」とは、会場にいる大多数の人。直接ターゲットを笑わせられなくても、大きな笑いを届ければほとんどの人を笑わせられる。つまり、あの番組は、芸人の笑ってしまう「空気」を作る力が求められる。過去の挑戦者と見ると、一部の人にウケるセンス型の芸人よりも、誰にでも伝わる分かりやすいパワー型の芸人のほうが良い結果を手にしている。