Unlimitedに上機嫌

「お金はかけずに学びたい」をコンセプトに、年間300冊を読む無職がPrimeReading対象本を紹介するブログです。

エビデンスってアンケートのことじゃなかったの?

帰省の電車で読んでいた本の備忘録。

(このブログでは)お馴染みの高橋洋一さんが書いた統計や確率に関する本。文系出身という免罪符を盾に可能な限り逃げてきた分野。しかし、高橋さんが別の本で「これからの時代、3つの言語(人文科学、自然科学、社会科学)を使いこなせるようにならないといけない」言っていたので、帰省のハイテンションにあやかって読んでみることに。

内容は、高校の数学で習ったような気がするものばかり。教科書と圧倒的に違うのは、実践度。実際にあった社会時事と絡めて解説してくれているので、統計や確率がどこで・どのように使われるのかが分かりやすくイメージできる。高校の先生もこんな感じで、実生活のものに落とし込んで教えてくれた良かったのにと思うが、決められた範囲を教え切ることが重要だろうからと、教師もノルマを抱えた会社員と同種なのかなと同情を感じなくもない。

本書で書かれている内容を箇条書きで並べる。

  • 世の中で起こる出来事は「事象」と呼ばれ、いろんな形で数値化できる
  • 統計の目的は、物事を数量的に考えること
  • 推計の出し方(確率の算出法)には、主観確率客観確率の2種類がある
  • 頻度主義とは、過去のデータからどれくらいの頻度で出現するかを予測する方法
  • 主観確率は、人の直感や勘を頼りに予測する方法
  • 主観確率の代表例が、宝くじ。期待値は40%(払った額の40%が戻ってくると期待できる)だが、「200円で1億円が当たるかもしれない」と幻想を抱く。
  • 統計の目的を2つに分けると、記述統計と推測統計がある
  • 記述統計とは、データの特徴や傾向を知ること
  • 推測統計とは、将来や得られないデータを予測すること
  • 標本とは全体の一部を切り取ったデータ、母集団とはデータ全体
  • バイアスがかかっている

文言一つで、アンケートの結果は大きく変わる

本書第1章第3節「記述統計と推計統計」では、「統計にはバイアスがかかるー標本抽出、設問の仕方の問題」という項目がある。ここでは、東日本大震災の復興財源をテーマに、「増税に賛成か」という設問でアンケートを取ると仮定した例題が出されている。出題法によって結果は変わる旨を伝える項で、内容はざっくり以下の通り。

  • 賛成であれば手を挙げる挙手制にすると、賛成派は少なくなる(挙手による心理的ストレス)
  • 前の設問で賛成に誘導する内容があったら、賛成派が増える(アンカーリング効果)
  • 「あなたが被災したとしたら、増税して支援を手厚くしてほしいと思いますか」という設問文にしたら、賛成派は増える(情緒への訴えかけ)

最近の出来事で設問文によって結果が変わる例としては、安倍元首相の国葬

出典:北海道新聞

上がNHK世論調査、下が北海道新聞のアンケート結果。調査時期は、上が2022年7月と8月、下が2022年9月。NHKが実施した世論調査は固定電話を持っている家計からランダムに選ぶのに対し、北海道新聞が実施したアンケートは同紙が運営するLINEアカウントと繋がっている人を対象に調査している。固定電話は高齢者に多く、LINEユーザーは中年、若年層に多い。調査の対象者だけでも、かなりの差があることが分かる。

また、設問文もかなり違う。政府の方針を主語にする世論調査に対し、アンケートは国葬を主語にしている。答え方も、前者は「評価する/しない/分からない」であるのに対し、後者は「賛成/反対/その他」を用意している。前者では政策として正しいかを尋ねられているため、「分からない」という回答がかなり多い。また、政策という国を前面にしたワードが設問文に含まれているため、「評価しない」と回答する心理的なハードルが高くなっている。反対に、アンケートでは一個人が抱く感情で答えられる気楽さが感じられる。「どう思いますか?」と聞くことで、思っていることを自由に答えればいいのだという心理的な余裕を与えられ、回答にも「反対」用意されている。北海道新聞以外も、メディアが実施したアンケートはいずれも、反対が賛成を大きく上回る結果をなっている。

普段政策として正しいかどうかを考えながら、ニュースを見ている人は少ない。メディアやSNSで流れてくる情報を頼りに良い悪いを何となく判断している人が、突然「政策をどう評価しますか」を尋ねられても、ハッキリとネガティブな評価を下すことは難しいのではないだろうか。NHKは最も中立な報道機関とされているとはいえ、本質は国営メディア。ありのままを伝えているつもりになっていても、そこには政府や国のバイアスがかかっていると思った方が良いだろう。