Unlimitedに上機嫌

「お金はかけずに学びたい」をコンセプトに、年間300冊を読む無職がPrimeReading対象本を紹介するブログです。

ヒーターのコンセントが溶けてから段ボールを見つけるまでの話

何やら外が騒がしい。時間はたぶん7時過ぎ。まだパートナーが出るのには30分ある。皿を落として割れたりしたのだろうか。お呼びがかからないので温かい眠りに身を委ねる。ほどなくして「行ってきます」と、耳元でささやく声が聞こえる。いつもより色んなことを言っている。「ヒーター」「火事」「解けた」物騒な単語が聞こえてきたが、彼女はいつものように出発しようとしている。寒くなってからの通例に従い、布団越しに仕事に向かう彼女を見送る。毎朝起きておにぎりまで作って、ほんとうに偉いなと思う。

起きてスマホを覗くと、彼女から5件のLINEが入っていた。結構物騒な内容だった。ヒーターのコンセント部分が溶け出している。電源を切ってコンセントを抜いたから火事にはなっていない。恐らく繋いでいたタコ足配線の経年劣化が原因だと思う。ケータイの充電器とかが刺さりっぱなしで電源を切っていない気がするから、起きたら早急に電源を切ってほしい、とのこと。送られてきたのは7時45分。最寄りの駅に着いてすぐに送ったのだろう、文面からも焦っている様子が伝わる。現在の時刻は、9時45分。彼女の必死の伝言を棒に振る2時間の時差。やってしまったと思いながら、恐る恐るベッドから出てリビングに向かう。恐れていた火の手は見当たらなかった。彼女の心配通り、スマホの電源は指しっぱなしで電源はついたままだった。熱を持っているかもしれないとパジャマの裾で慎重に電源を切りコードを抜いた。

ここからが忙しかった。歯磨きと洗顔を早々に済ませると、ヒーターの処理に取り掛かった。家電の取扱説明書が入っているファイルを取り出す。すぐに捨てていた一人暮らし時代には分かり得なかったメーカーの連絡先。何でもファイリングするパートナーの几帳面さに救われた。電話番号は乗っておらず、サイトとメールアドレスが記載されていた。まずは、公式サイトにアクセスしてみた。こんなページが出てきた。

怖い。バイナリーとか、不動産集客とか、これ以上先に進んだら身に覚えのない請求ページに繋がると想像しそっとページを消した。こうなると、メールを送るしかない。1カ月半問題なく使えたこと、今朝コンセント部分が解けたこと、ないと寒くて死んじゃうから早く返答が欲しいことを、現物の写真とともに送った。すぐに返事がやってきた。送り主は、Mail Delivery System。届かなった時に帰ってくるあれ。メールアドレスを確認したが入力ミスではない。彼女のファイル癖も虚しく、製造元との連絡手段は途絶えてしまった。

発想を変えて、販売元とのコンタクトを試みることにした。そう、天下のAmazonとの連絡だ。ネットで返品方法を調べていろいろイジってみると、チャットで連絡することに成功した。AIが繰り出す機械的な質問に答えた結果、「私ではお客様の問題を解決できません」という捨て台詞を吐き、変なページに飛ばされた。AIは信用ならないものだと確信した。巷では、AIに仕事を奪われる論が各所で主張されているが、職務放棄を平気でするロボットよりもまだまだ人間の方が上だなと思った。

AIが飛ばしたページを消そうとしたとき、下の方に数字の羅列が見えた。022と聞いたこともない始まりだが、電話番号に違いないと思いさっそくかけてみる。2種類の自動音声入力を終えると、オペレーターが出てきた。片言なのでAI対応が続いていると勘違いしたが、オペレーターは「趙さん」と名乗る中国人みたいだった。さすがは世界に股をかけるグローバル企業。やや不安に思ったが、先に進むしかない。本人確認のために、メールアドレスを聞かれた。NTTや電力会社、クレジット会社など、これまでさまざまなコールセンターにお世話になったがメールアドレスを聞かれたのは初めてだった。さすがはIT企業だと思った。いくつか持っているので合っているか不安になったが、多分これだと思うものを読み上げ始めた。営業職をしていた時に経験があるが、電話口でアルファベットを伝えるのは難しい。対面ならメモして見せることができるが、発音だけで伝えなければいけない。予想通り1文字目の”F”で詰まった。何度伝えても「エフエル」が「エスエル」に聞き取られてしまう。「違います、エフエル」と訂正し、「エスエルですね」と返ってくる。コントみたいだなと思い始めて以降、笑いを含んだ「エフエル」は「エックスエル」になって相手に届く。シリアスな緊急事態はどんどんコントに変質していく。思考を変えて「フランスのエフです」と伝えた。「なるほど」という相槌とともに、嘘みたいに正確に伝わった。電話越しでアルファベットを伝える時は、単語を伝えるのが良い。大きな学びを得た。難関のメールアドレス認証を終え、氏名住所を伝える。住所を読み上げた始めたとき、「郵便番号から」と指摘された。「え、ため口?」と思ったと同時に、相手の声が聞こえなくなった。画面を確認して見ると、まだ通話中と表示されている。だが、通信レベル悪いとも表示されている。通話料をケチって楽天LINKを使ったツケが回ってきた。「もしもし」を数度繰り返したのち、完全に電話が切れた。

もう一度、コールセンターに掛けるところからやり直した。今度は、「佐伯」と名乗る人が出てきた。突然切れてしまった前任者には申し訳ないと感じつつも、日本人であることに安堵した。前回得た教訓を引っ提げ、メールアドレスは1文字ずつ単語とともに伝えた。日本人であるという安心感からか、一度もつっかえることなく手続きが完了した。27歳の自分ですらこのように感じるのだから、90歳を超える母方のじいちゃんなんかは日本人のオペレーターじゃないと絶対無理だろうなと思った。

結果として、Amazonが返金してくれることになった。段ボールに商品を詰め近くのヤマトに持っていく。その際、登録のメールアドレスに送られたQRコードを見せれば、送り状などを書かずに返品処理が済むとのこと。簡単だ。さて、残された問題は段ボールの確保だ。自分が知る限り、我が家に空の段ボールはない。紙袋やレジ袋同様、取り溜めることを固く禁じているからだ。だが、我が家はマンション。いつも下のゴミ捨て場には段ボールが出されているのを見かける。集荷日がいつなのか分からないが、今日に限って1個もないということはないだろう。

パジャマのままエントランスに向かう。段ボール置き場には、塵一つ見当たらなかった。今日に限って...と、肩を落としながら階段で自室へと戻る。スーパーやコンビニに行って段ボールをもらうか。そうなると、梱包するために一度家に帰ってくる必要がある。寒い中、段ボールをもらうためだけに家を出るのは嫌だ。最後の望みをかけて、押入れを覗く。やはり、空の段ボールはない。片隅に何枚かの紙袋を見つけるが、今は目をうぶってやろう。奥の方に積まれた災害グッズを見る。トイレ用の砂と水2箱。どちらも段ボールに入ったままだ。「これだ!」と、思わず小ジャンプをする。砂のほうは小さすぎるため、2L×6本の水を1箱取り出す。水を出してヒーターを入れてみる。シンデレラフィット。このヒーターを格納するために作られたのかと思いたくなるほど、高さも幅もピッタリ。

約1時間をかけ、燃えかけヒーターの始末が完了した。一連の出来事から得たのは、以下の3つ。

  • ヒーターはタコ足に繋げないこと
  • 電話越しにアルファベットを伝える時は、単語で伝えること
  • 段ボールは1個ぐらいスペアを持っておくこと

火災やケガもなく、大変貴重な経験となりました。