Unlimitedに上機嫌

「お金はかけずに学びたい」をコンセプトに、年間300冊を読む無職がPrimeReading対象本を紹介するブログです。

イートインスペースで出会ったおじさんが教えてくれたこと

 コンビニにイートインスペースを設けようと言い出した人は、天才だと思う。週に1,2度のペースで利用するぐらいで、ヘビーユーザーとまではいかないが、イートインスペースのない世界線に生まれたらと考えるだけでもゾッとする。それほどにありがたい存在。昼時にはご飯を食べるサラリーマンでにぎわい、夕方にはお出かけ帰りの奥様方のお茶会が開かれる。公園のベンチよりも民度が高く、コーヒーショップよりも貧相が漂う不思議な空間。寒くなってからは、小岩井のホットカフェオレを買って、30分ほど過ごす。大体みんなが帰宅し始める18~19時の間。月曜日には後ろの雑誌コーナーで発売ほやほやのジャンプにかじりつくサラリーマンたちが見られるし、金曜日には自分へのご褒美に揚鶏や肉まんを頬張るOLたちを眺める。

 つい昨日、いつものようにあたたかいドリンクを買って休憩していた。突然冷え込み始めたからだを温めていると、隣からきつね蕎麦の匂いが漂ってきた。ちょうどお腹が空き始めていたころだったので、思わず唾を飲み込んだ。勢いよく麺をすする音が聞こえる。相当にお腹が空いてことが伺える食べっぷりだった。熱くないのかなと心配するほど息をつくこともなくすすり続けていた。しばらくすると、その人物は後ろのポッドでお湯を継ぎ足した。「カップそばで追いスープ?」と思ったが、そういう人もいるかなと思った。それが、3回ぐらい続いた。さすがに常軌を逸していると感じ、恐る恐る隣の人を見た。ホームレス風の男性。しかし、彼らが携帯するような大量の荷物は見当たらなかった。向かいの道路ものぞいたが、それらしい車両は止まっていない。だが、ヒゲは髪の毛ぐらい伸びていて服もヨレヨレ。追いスープしていたのはこういうわけか、と納得した。単なる趣味だったら申し訳ない。

 メラビアンの法則というものを割と信頼している。人間は視覚情報でほとんど相手を決める、というもの。昨日のイートインで、自分はまさにメラビアンの法則に囚われていた。相手がホームレス風の身なりをしていると見るや、漂っている汁の匂いが酸っぱく感じられるようになった。貧困特有の汗が混じった鼻の奥をあの匂い。マスク越しでもどんどん匂いはきつくなる。おじさんの後に入ってきた女子高性は、お構いなしにアイスをほおばっている。このことからも、彼の放つ匂いは迷惑なレベルではないと思う。だが、自分の五感は、視覚情報が与えた主観に完全に支配されていた。

 完全にホームレスだと思われてしまったおじさんは、袋の中から興味深いものを取り出した。5,6冊の文庫本。そして、彼は本に貼られた紙のラベルを取り始めた。ちゃんと見ていないが、おそらくBOOK OFFで購入したものについているシールだったと思う。その時、自分は彼の社会的地位を修正した。ホームレスが読書などしない。いや、読書家のホームレスも中にはいるかもしれないが、生活に困窮している人が本のまとめ買いをするだろうか。ラインナップの中には、NATIONAL GEOGRAPHYもある。英語の勉強をしていた時に、よく読んでいた科学雑誌だ。自分の場合は、WEBサイトだったが。ラベルを取り終えると、ある小説を読みだした。ちらっと「鳥羽」という文字が見えから、鳥羽亮の時代小説だと思う。鳥羽伏見の戦いをタイトルに含む本かもしれないが。おじさんは、ものすごいスピードでページをめくる。1ページ5秒ぐらいのペースで。本を置くと、ルーズリーフを取り出し何やら書き出した。ページをめくるスピードとは対照的に、1文字1文字丁寧に書いていた。まるで、出生届の我が子の氏名欄を書き込むように、穏やかで愛をこめて。あの短時間でのインプットで、何を書いていたのか無性に知りたかった。だが、偶然イートインスペースで隣に座った相手に話しかける勇気は持ち合わせていない。

 人を見かけで判断してはならない。これまで何度か大人に教えてもらった。しかし、視覚的な情報に基づいてイメージを形成してしまう真理は、あまりに強力だ。今回イートインスペースでの出会いから、「人を見かけで判断してしまうのは仕方ない。だが、最初に作られたイメージを信用し続けてはならない」という教訓を得た。