Unlimitedに上機嫌

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あの時できなかった「いい質問」を考えてみる

primereadingss.hatenablog.jp

こちらの記事では、自分の情けないコミュニケーション能力について書いた。特に、シェフとの会話における「質問力」。一夜明けたいまも、「良い質問ができたら、もっと会話が盛り上がったに違いない」などとばかり考えている。来月には別の会場での食事を予定しており、また料理人の方と会話することになるかもしれない。そうなった時、少しでも場を盛り上げられるように良い質問を作っておこうと思う。

良い質問とは?

具体的な質問を考える前に、「よい質問とは何か」について理解しておきたい。文言だけを丸暗記しても、「質問力」が向上したとは言えない。良い質問の定義は、こちらの本を全面的に参考にさせていただく。

「脱力タイムズ」などのメディアでもお馴染みの、慶応大学教授の斎藤孝さんが書かれた本。本書の第2章では、「よい質問」として3つ紹介されている。

  • 「具体的かつ本質的」な質問
  • 頭を整理させてくれる質問
  • 現在と過去が絡まり合う質問

「具体的かつ本質的」な質問

質問を、「本質的かどうか」と「具体的/抽象的か」の2軸で分類する。

本書の内容を少し変えて、日常的にしそうな質問分を分類してみた。「いい質問」は、上の表の赤ゾーン。「あなたは、いまどこにいますか?」と質問されたら、「家」や「職場」などの具体的な質問が返ってくる。「本質的かどうか」はちょっと分かりにくいので、「今聞く意味があるかどうか」と置き換えて考えたい。「あなたは、いまどこにいますか?」という質問は、状況によっては「具体的で非本質的」な質問になる可能性がある。例えば、目の前の相手にする場合。その場にいることは二人が認知していることなのだから、聞かれた側としては「今聞く意味はない」質問になる。「いま、どこにいる?」が、具体的で本質的な質問であるのは、オペレーターがSOSをかけた相手や時間になっても現われない相手にする場合などになる。

本書で紹介されている、谷川俊太郎の「金銀鉄アルミニウムのどれが好きか」という質問は、一見「今聞く意味はない」ように思える。家に着いていきなり奥さんにこの質問をされたら、何を企んでいるのか不審に思って答えないかもしれない。しかし、谷川俊太郎は33の質問をする企画の中で、最初にこれを持ってきた。目的は、相手が答えやすい空気を作るため。つまり、打ち解けるためにこの質問を用意したのだ。ただ、自分が答える側になった時を想像すると、谷川俊太郎に力量を測られるのではないかと邪推してしまう。「金と言ったら子供ぽいかな」「かといって、銀や鉄ってのも...」みたいな感じで、いろいろと考えてしまいそう。もし、自分が同世代に質問する立場だったら、「アチャモキモリミズゴロウのどれが好きか」と投げるかもしれない。ポケモンに通っていなかったら「ハイ?」となるが、好きな金属よりもとっつきやすいかなと考えて。事前に相手が洋画好きだと分かっていれば、「グリフィンドール、ハッフルパフ、レイブンクロー、スリザリンどれが好きか」に変えるかもしれない。

頭を整理させてくれる質問

「頭を整理させてくれる質問」は、聞き手と答え手の「したい/したくない」で分けることができる。

本書では、著者の自身が主催する塾に向かう途中の車中での経験が書かれている。頭の中は塾のことで頭がいっぱいである時に、自分が聞きたいことばかりをしてくる子供にキレてしまった。その時著者が欲しかったのは、これから塾で話す内容を整理してくれるような質問で、そうした状況や文脈を感じ取れない子供に「お前がしていい質問は1つだけ。今日は塾で何をやるの?」と伝えたらしい。かなり大人気ないと思いながら、自分は大人になってからも「自分が聞きたいこと」を中心に質問していることに思い至った。前職では経営者と話す機会が多く、現場に出るまでに数えきれないくらい先輩とロープレをした。一番言われたのが、「お前がしているのは質問ではなく、拷問」。最初は意味が分からなかったが、振り返ってみれば「自分が聞きたいことを自分のペースで」投げつけているという意味だったのだと思う。拷問の特徴は、設問をぶつけられる相手が楽しくないこと。質問は、話したいと聞きたいを両立させてこそ意味があるから、「したい/したくない」という判断軸は実践的でわかりやすい。

現在と過去が絡まり合う質問

これは、ちょっとイメージがつきにくいので、「フランス料理を食べている時に、シェフと話す」場面で考えてみた。

「いい質問」は、フランス料理を食べている「現在の文脈に沿っている」且つ料理人歴35年のシェフが「相手の経験世界、過去の文脈にそっている」質問だ。メイン料理にあったエビを食べた時、「このエビはどこ産ですか?」という質問を実際にした。その前に野菜にはこだわっているという話をしていたし、まさに今エビを食べているので「現在の文脈に沿っている」。相手の経験世界に沿っているかどうかは分からなかったが、「最も天国に近い島で採れたエビ」というエピソードを引き出せたので結果的に「いい質問」と言える。反対に、相手の過去や経験に沿っていない「普段もフランス料理を食べるんですか」という質問をしてしまった。相手は苦笑いを浮かべながら、「普段は、米とかパスタとか、普通のものを食べますよ」と答えていた。あの時、「初めてフランス料理を食べたのはいつですか?」などと質問すれば、フランス料理のシェフになろうとした過去や夢などを引き出せたかもしれない。「フランス料理を作る人=普段からフランス料理を食べている人」という安直な理屈を質問に変換していては、いつまで経っても「いい質問」はできない。

「いい質問」を探してみる。

料理人との会話で「いい質問」ができるようになるのが、今回のゴールだ。「いい質問」については、何となくだが理解できた。仕上げとして、具体的な質問を考える。自分の足りない頭からは出てこないので、実際にされたものから「いい質問」を見つけて、どの辺がいいのかを分析しようと思う。

その細くてコシが出る、でもちゃんと香りも保っていられる蕎麦をつくる上で、大切にしていることはなんですか?

出典:三浦 幸喜氏 インタビュー - 蕎麦屋の地平を切り拓く

この直前に、理想のそばについての質問をしていて、「細くてのどごしのいい蕎麦が大好きなので、それでもちゃんと蕎麦の味と香りが出るというのが、理想の蕎麦」という答えを引き出している。この質問では、前半部で直前の答えをまとめていて、「本質的で具体的」な質問をしている。単に、「そばを作る上で、大切にしていることはなんですか?」でも良い気がするが、相手の言葉を繰り返すことで、「自分の話をちゃんと聞いてくれているんだ」と誠実さを伝えることができ、より相手が答えやすい空気を作ることができていると分析。

お客さまにはどんなシチュエーションで来てほしいですか?

出典:三浦 幸喜氏 インタビュー - 蕎麦屋の地平を切り拓く

この雑誌の目的は、インタビューを受けた料理人とお店を知ってもらうこと。こだわりを持って食に向き合っていることを知っているからこそ、どんな人に食べてもらいたいかを聞くことも大切。「どんな人に来てほしいですか」という質問は、「本質的で抽象的」で、「蕎麦が好きな人」や「誰でも来てほしい」と答えるしかない。人ではなく、シチュエーションとすることで、答える側としては「より食事を楽しんでもらえます」というポジティブな答え方ができる。まさに、「相手が答えたいこと」と「自分(読者)が聞きたいこと」を両立させた「いい質問」だ。

十日町市ご出身ということなのですが、料理人としての原点はどんなところですか?

出典:登坂 涼シェフ インタビュー - 「お客様ファースト」から生まれる幸せの循環

プロフェッショナルを相手にしたインタビューでは、定番の「ルーツ」に関する質問。この前は、店のレイアウトに関する会話でルーツとは関係がない。話題を切り返る際に、前置きがないと台本を読み上げている感じを与えてしまう。準備されていたものをただ読み上げていると思われては、答える側としても気分が乗らない。「十日町ご出身ということなのですが、」という前置きは、話題の切り替えにプラスして、出身地が料理人を目指す上で重要な意味があるという解釈も含まれている。実際に、山の中で育っていて家族にご飯を作ったことが料理人の原点だという答えを引き出している。事前に相手を知ることも大切だが、「もしかしたら」という予想や解釈を質問に加えることで、相手に誠実さを伝え距離を縮めることができる。

そして、みんながいちばん驚かれるんじゃないかなと思うのが、デザートの前のパスタ。10種類の中から、1種類20gで好きなだけ注文できるっていうシステム。この発想はどこからきたんですか?

出典:登坂 涼シェフ インタビュー - 「お客様ファースト」から生まれる幸せの循環

「発想はどこから来たんですか?」という質問は、「具体的で本質的」な「いい質問」。その質問を繋げるために、「共感」と「まとめる」という2つの工夫がされている点に注目したい。「みんなが一番驚かれる」と言われると、答える側としては「やっぱり気になる?」とノリノリになる。そして、何に驚くのかを端折らずに言語化することで、質問を投げる相手へのダメ押しになる。人は、より多くの人が知りたがっていると知らされると、答える意欲が増す。「目の前の私とその向こうにいる大勢に教えてください」と見せることが、優秀なインタビュアーの特徴と言えるだろう。

フランス料理のフランス料理らしさはどんなところだと思いますか?

出典:手島純也シェフ インタビュー - 名店の血脈「100年続くレストラン」の一部になるということ

「フランス料理らしさとは何か」という、本質的で抽象的な質問。相手によっては、答えに戸惑うだろう。しかし、相手は「100年続くレストランの総料理長」ということで、あえて哲学的なまま質問を投げていると考察する。「フランス料理を考えに考え抜いているに違いない」というリスペクトがあるからこそ、抽象的な聞き方が許される。NHKの番組でも、「あなたにとって、プロフェッショナルとは?」という抽象的な形式だからこそ、番組が締まりそのプロフェッショナルの凄みが浮き彫りになるのではないだろうか。