Unlimitedに上機嫌

「お金はかけずに学びたい」をコンセプトに、年間300冊を読む無職がPrimeReading対象本を紹介するブログです。

「ゴジラ」には勝てそうにないが、「コシラ」なら撃退できそうな気がする。

KindleのAIが不思議な本をすすめてきた。

実に興味をそそられるタイトル。たぶん音声学の本なんだろうな~と思いながら、帰省した際に母から聞いた話を思い出す。「日本人が『ら』抜き言葉を使うようになったのは、GHQの仕業」というオカルト話だ。母が聞いた話では、「ら」には力がある音らしい。だから、GHQは日本人を弱体化させるために「ら」を抜いた言葉を使うように指導した。自分は平成生まれなので、「ら」抜き言葉を最近の傾向だとばかり考えていた。もし、1945年に起源があったとすると、約50年かけて日本人の「ら」抜きに成功したと言える。もしかしたら、「ら」抜き戦略も解き明かせるかもしれない。そんな期待とともに、本書を読み始めた。

予想通り、本書は音声学に関する本。全7章構成になっていて、各章には以下の内容が書かれている。

  1. 音象徴
  2. 音声学のはじまり
  3. 記述音声学
  4. 調音音声学
  5. 音響音声学
  6. 知覚音声学
  7. 福祉音声学

第3章から音声記号が出てきて、学問書の様相を呈する。自分はさわりの部分だけで良いので、第1,2章と第6章の一部を読んだ。第2章までは「身近な例→学問的な解説」の順なので、かなり読みやすい。例えば、もし「ゴジラ」が「コシラ」だったらどう感じるか。音声学をまったく知らない人でも、弱くなったという感想を持つと思う。同じように、もし「ガンダム」が「カンタム」だったら。音声学では長年、「音と意味のつながりは恣意的である」と考えられてきた。恣意的とは、論理的ではないということ。つまり、音と意味には何の関係もないということ。しかし、実際に「ゴジラ」から濁点を取って「コシラ」、「ガンダム」から濁点をとって「カンタム」とすると「弱くなった」と感じられる。「弱くなった」とは「意味の変化」を指し、「音と意味には何の関係もない」という言説は正しくないように思える。

他にも、音と意味は密接な関係がありそうだと思える事例がたくさん紹介されている。中でも興味深かったのが、「阻害音」と「共鳴音」。子音は2種類に分けられ、濁音になる音が「阻害音」、ならない音が「共鳴音」。日本語の子音は、以下のように分けられる。

  • 「阻害音」カ行、サ行、タ行、ハ行
  • 「共鳴音」ナ行、マ行、ヤ行、ラ行、ワ行

重要なのが、音が持つイメージ。「さたか」と「まなや」という名前の女性がいたとして、よりおしとやかで柔らかい性格なのはどちらか。

多くの人は、「まなや」の方がよりおしとやかで柔らかい女性だと答える。反対に、「さたか」という名前からは、ちょっときつくて男勝りな女性を想像するかもしれない。このように、「共鳴音=丸みがある=女性的」「阻害音=角ばっている=男性的」という、音と意味の関係がある。それを確かめるために、本書では2009年の人気名前ランキング50を、男女別で共鳴音/阻害音の数を調べた結果が載っている。男子の名前の約7割に阻害音が含まれ、女子の名前の約7割に共鳴音が含まれるという結果になっている。つまり、「共鳴音=丸みがある=女性的」「阻害音=角ばっている=男性的」を立証している。

また、筆者が立てた「メイド喫茶で働く女性は、お店で共鳴音を多く含む名前を名乗るのか」という仮説を検証する試みが面白い。お店のサイトを覗き、スタッフの名前の共鳴音と阻害音の数を調べたらしい。結果は、人気の名前ほど共鳴音が多いという結果にならなかった。仮説通りにならなかった原因を突き止めるために、お店に行き働く女性にインタビューして回ったらしい。すると、お店で萌えキャラを演じる女性は共鳴音を多用するが、ツンデレキャラを演じる女性は阻害音を使う傾向にあることを突き止める。著者の行動力にも、音声学の美しさの両方に感嘆した。これはアニメや漫画のキャラでも同じ傾向が表れそうだなと思い、時間があったら検証してみたいと思う。

音声学の触りのみにふれたが、かなり面白いなと感じた。音声学を日常に使う機会があるとすれば、コミュニケーションをとる時と何かを名付ける時だと思う。例えば謝る時は、「ごめんなさい」よりも「申し訳ありません」。濁音は角ばった強い印象を与えるので、「申し訳ありません」を選んだ方が反省の色が強い。人の名前を付ける機会はそう多くないが、記事のタイトルを付ける時は頻繁に使えそう。女性をターゲットにした記事であれば、濁音は使わず「共鳴音」をできるだけ多くする。反対に、男性に読んでもらい時は濁点や「阻害音」を多用して、角張った強い印象を与える。商品名やサービス名を考える企画系の仕事をする人は、音声学は学んでおくべき学問と言えるだろう。