Unlimitedに上機嫌

「お金はかけずに学びたい」をコンセプトに、年間300冊を読む無職がPrimeReading対象本を紹介するブログです。

磁力を持った彼女

1年ぶりの帰省。久しぶりに電車に乗る。大晦日の午前中は人で溢れかえっているに違いないと思っていたが、思いの外空いていて肩透かしにあった。コンビニでお茶を買う。人一倍小腹が空くたちだから、3種類あるうちの安い2つの羊羹を買う。遠出にする時は、普段よりも心配性になる。まあ、隣には電車で20分の実家に帰るだけなのに、リュックをパンパンにしている人がいるのだが。1年前はどこで切符を買ったのかを忘れた。とりあえず普通の券売機を覗いてみるが、目的地の切符は表示されない。普段なら自力で解決しようとしただろうが、出発まで15分。大人しく駅員さんに尋ねる。案内された黄緑の券売機でチケットを購入。しかし、間違えて特急券も買ってしまった。近くにいたスタッフさんに尋ねると、今日中であれば目的地の駅で払い戻しができるとのこと。初めて電車を乗る子供みたいだなと情けなく思う。
無事彼女とも別れ、久しぶりの一人旅。一人で遠くに行くのはいつぶりだろうと、すっかりペアで行動するのが当たり前になったことを感じる。ホームに出てみると、電車を待つ人が点在している。新幹線や特急電車ほど人はいない。目的地までの3時間、もみくちゃにされると覚悟していただけにちょっと残念。約2時間乗り続ける最初の電車に、問題なく座ることができた。座れない時は映画を、座れた時は本を読もうと決めていた。隣に座っていた方が小説を読んでいたこともあり、すっかり読書スイッチが入る。Kindleを取り出し、放ったらかしだった小説を読み始める。
角田光代の『さいはての彼女』。さまざま主人公が旅に出る短編小説集。タイトルにある「さいはての彼女」は、初めの短編に出てくる女性。主人公は東京の実業家。東京でバリバリ稼いでいる女社長は、沖縄にバカンスを計画していた。段取りはすべて「優秀な秘書」に任せていた。約束に30分遅れて迎えにきた秘書に苛立ちながら、用意させたチケットを持って飛行機に飛び乗る。降り立ったのは、女満別。沖縄とは真逆にある、北海道だ。これを最後に退職する秘書の仕業だと確信しながら、彼女が用意したオンボロレンタカーを前にする。見知らぬ土地に投げ出された女社長。ぶつけるアテのない怒りに震えていた時、大型バイクに乗った女性が現れる。「ケンタウロスのようなたくましいバイクと、踊り子のような可憐な女の子、この組み合わせに、興味が湧いた」主人公とハーレイ乗りの華奢な女性との二人旅が始まる。
耳の聞こえないバイク乗りには、2つの能力がある。1つ目は、読唇術。唇の動きで相手の話していることが分かる。また、聴力を補うため他の五感が異常に発達している。エンジンをかけた時の振動でバイクの調子を感じ取ることが出来る。もう1つは、明言されていない。自分は磁力だと思った。主人公をはじめ、彼女には人を引きつける不思議な力がある。この人をもっと知りたいと思わせる魅力により、彼女の周りには支援者や友達、彼氏候補が集まる。彼女のような人を一人知っている。大学時代に出会った女性だ。大学の生協で初めて彼女を見た時、話しかけないとと思った。隣にいた友達にも構わず、友達になりませんかと話しかけていた。それから彼女を巡ってたくさんのことがあったが、今でも彼女は友達とも親友とも違う特別な存在だ。たまにメールを送るたび、いつも違う場所から返事がくる。旅先やホームステイ先で出会った人たちとの思い出を読むと、あの時自分を動かしたのは彼女が持つ磁力なのだと思う。