Unlimitedに上機嫌

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害虫外敵目の敵?シロアリの凄さを思い知って勝てる気がしない

基本kindleで本を読む。何を読むかは、基本AIに任せている。最近は、コミックエッセイばかり読んでいたので、「あなたへのおすすめ」欄はエッセイ本で占められている。しかし、中に興味深い周りとは一線を画すタイトルを見つける。

タイトルを見て瞬時に、「大人向けのエロい本?」と、中二的反射をしてしまったが、後に続く「岩波科学ライブラリー」という文言を見てどうやら科学をテーマにした入門書であると胸をなでおろす。いや、一部ガッカリした気持ちも覚えたかもしれない。

これまでの人生、科学と名のつくものからは逃げてきた。生物も例外ではなく、高校の時には遺伝子のところで挫折したのを覚えている。この本は、まさに遺伝子に関する記述が多い。シロアリの生態について書かれているので、当たり前といえば当たり前なのだが。生物嫌いを自認する自分ですら、かなり読みやすいと感じた。いくら入門者とは言え、一日中研究室にこもって過ごす学者先生が書いているからお堅いというイメージを持っていた。しかし、この本を書いた松浦さんはサッカーや人間生活に交えて、分かりやすくユーモアたっぷりに書いてくれている。特にクスっと来た一節がある。

ハーレムと聞くと、男にとっては何だかパラダイスのような響きがあるのだが、こちらはどうも悪夢のようだ。夫婦げんかをしても、妻の分身が六〇〇人もいたのでは、勝てる気がしない。正直、一人でも難しいが。

シロアリは1匹の王が数百の妻を取ることがある。しかし、複数いる妻は本妻(一番最初の女王)の遺伝子を半分持ったシロアリたち。王は一人で数百いる妻の分身を相手しなければいけない、というハーレム世界の苦労を語った一文。著者が既婚者であるかは分からないが、全ての男が無条件に抱くハーレム像をユーモアたっぷりに書いていて、自虐的な笑いを誘われる。

シロアリの基本情報

備忘録を兼ねて、本で知り得たシロアリの知識を書いていこうと思う。

  • シロアリは基本一夫一妻制
  • 一族が暮らす空間(巣)をコロニーと呼ぶ
  • コロニーを作ったオスを創設王、メスを創設女王と呼ぶ
  • 創設王の死はコロニーの終わりを意味する
  • シロアリは1日に25個の卵を産む
  • コロニーにはカースト制度(役割分担)が存在する
  • カースト制度には、王、女王、ワーカー、羽アリがいる
  • 創設王の役割は、子孫を産むこと
  • 創設女王の役割は、子孫を産むこと、遺伝子を残すこと(単為生殖)
  • 女王(二代目以降)の役割は、子孫を産むこと
  • ワーカーの役割は、コロニーの運営
  • シロアリの役割は、新しいコロニーを築くこと(種の存続)
  • シロアリはメスのみに生殖能力がある
  • 生殖をするのは女王のみに限られる
  • 有性生殖と無為生殖の2種類の生殖法を使い分ける
  • 有性生殖でワーカーや羽アリ、無為生殖で女王を産む

興味深かったこと

繁殖能力はさほど高くない

シロアリと言えば、軒下に潜み家を壊す害虫というイメージを持っていた。事実、日本全域に生息するシロアリは木造家屋を中心に人家に被害を与えている。冒頭で、「アリ」とついているが、分類的にはアリではなくゴキブリの仲間だと説明があった。ゴキブリも人間社会に身近な存在で、繁殖力が異常に高いことで知られる。1匹見つけたら100匹とも、1万匹ともいわれるゴキブリの仲間ということで、さぞかし一度に大量の卵を産むのだろうと思いきや....女王は一日にせいぜい25匹程度の卵しか産まないらしい。まず、この点が意外だった。しかし、これだけでは終わらないのがシロアリの奥深さ。

上にも書いたが、シロアリは2種類の生殖法を使い分ける。ワーカーたち用の有性生殖と女王たち用の単為生殖。ハチなどの生物は、女王が一人で卵を産む。彼女がたくさん卵を産めるようにするために、他のハチたちはせっせと彼女に栄養を届ける。この方式をとるのは、ハチが一度に大量の卵を産めるから。一度に何万という卵を産めるハチに対して、シロアリは一度に25匹しか産めない。一カ月間生み続けても、一族は800匹弱ずつしか増えない。羽アリが新しいコロニーに見つけて次世代を形成する生存率は、何万匹に1匹の確率。種の繁栄には、大量の子孫を残さないといけない。一匹の女王だけに任せていては、めっちゃ時間がかかる。そこで生み出されたのが、単為生殖で女王の分身を作ること。単為生殖とは、メスが一人で子供を産むこと。人間にはできないが、シロアリなどの昆虫では単独妊娠ができる種がいる。オスと交わってできる子供との違いは、遺伝子。仮に親の女王がAB型だとすると、単為生殖でできるのはAA型かBB型の2種類。つまり、親のどちらかの遺伝子を持った子が生まれる。メスが単為生殖して出来る子は必ずメスなので、生殖能力を持つ。このようにしてできたメスは、2代目女王と呼ぶ。先ほども王1匹に対して女王600匹がいる場合もあると言ったように、600匹の女王が一日に産める卵の数は、25×600で15,000匹となる。女王の数が600倍になれば、コロニー全体の生殖力も600倍になるというシンプルな理屈。このようにして、1匹当たりの繁殖力を単為生殖による分身でカバーして、母数を増やし種の生き残り確率を上げる。ダメ押しをするなら、創設女王は2代目女王を産み終わった後自らを子供たちに食べさせ彼らの養分とする。お役目を終えた者はさっさと身を引き次の世代につなぐ。床下に潜む彼らは、ムダの一切ないシステムを発明した超合理主義者の集団なのだ。

人間社会に見る「シロアリ的」要素

人間社会にも、シロアリぽい生態をもったものはないかと考えてみた。不確かだが、一つ見つけた。政治だ。詳しく言えば、世襲制が支配する日本の政治だ。

日本の政治家は、3割近くが世襲議員だそうだ。世襲議員とは、親も政治家で彼らのおかげで当選している連中を指し、歴代の内閣総理大臣のほとんどは世襲議員だ。直近で言うと、岸田さん安倍さんも麻生さんも、全員政治家家系の出身。世襲議員率3割というのは異常らしく、アメリカは5%程度にとどまるそうだ。

ネットの記事を見た感じでは、世襲議員が当選しやすい理由は3つの「バン」を親から受け継ぐためだそうだ。看板、カバン、地盤と呼ばれ、それぞれ知名度、金、支持者に言い換えることができる。

この3つの「バン」を引き継ぐというのが、シロアリの生態に似ている感じがする。シロアリの生態の本質は、遺伝子を残すこと。自分の遺伝子を持った子供を産むと同時に役目を終え子供たちの養分になる女王は、任期を終えた政治家に相当する。創設女王という個体が死んでも種が存続するように、父親の政治家が現役を退いても苗字は残る。任期を終えるちょっと前に親の秘書を務める「修行」を始める習慣があるそうだ。イスは変わらずあるで親が空けた席に子が座る。スムーズな世代交代は、シロアリでも政治家でも共通している。

ここまで書くと、政治家だけじゃなく企業などでも同じことができそうな気がする。事実、中小企業は子息に会社を継ぐケースがほとんど。しかし、政治家ほど世代交代を繰り返すことなく絶えてしまうことがほとんどである。1つは、ビジネスよりも政治の方が安定しているから。ビジネスは不確定な要因が多すぎる。また、景気や物価などの外的要因も同様に多い。対して、政治家は基本カネさえあれば当選できてしまう。当選するためには支持者を集める必要があって、支持者のほとんどはカネで集めることができる。政治家の血脈を途絶えさせる要因となるスクープなども、基本カネがあれば封殺することができる。何年経っても、繰り返し「政治とカネ」に関するニュースが絶えないのは、基本カネで政治が決まる本質的な構造が変わらないからだろう。