Unlimitedに上機嫌

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【ネタバレ注意】映画『リミット』に学ぶ、「もし、渡航先でテロに遭ったら」

リミット」のネタバレ感想と考察【90分間、棺の中…「密室」の究極を極める!?】 | 午前三時の煙草と珈琲

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『レッドライト』が面白かったので、同じ脚本家が手掛けた作品をプライムビデオで検索した。『レッドライト』の脚本を務めたのは、ロドリゴ・コルテスというスペイン人。これまで彼が手掛けた作品は、こんな感じ。

出典:Wikipedia

スペインでは結構有名な映画監督らしく、ゴヤ賞(スペイン版「アカデミー賞」)をはじめ、色んな受賞歴がある。プライムビデオで「ロドリゴ・コルテス」と入力すると、32の検索結果が得られる。その中の『[リミット]』(2010)をチョイス。2023年1月25日時点で、100円でレンタルすることができた。

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主演は、ライアン・レイノルズ。『デッドプール』でも有名な俳優さん。言語は、英語。ここからネタバレを含むので、ご承知おきください。

オープニングクレジットが明けてから、画面は真っ暗。ネット障害かなと疑ったが、時間はちゃんと進んでいる。20秒ぐらい経ったあたりから、少しずつ音声が聞こえてくる。男性の吐息。咳き込んでいてどこか焦燥感をあおる。暗闇が2分弱続いたのち、ようやく男の目元が照らされる。猿ぐつわをされ、必死で助けを求める。ここから大脱出劇が始まると思いきや、棺の中で1時間半が過ぎる。テロリストから要求される開始30分ぐらいで、この映画はこのまま棺の中で完結するのだと予測がたつ。その時点でやや不安になる。なぜなら、”ほぼ”移動なしで、たった一人の登場人物の1時間半。視聴前に教えられていたら、きっと見るのを考え直すような情報だ。「登場人物が増えているから」「キャラクターが移動するから」物語は成立するという、固定観念を誰もが持っている。しかし、この映画ほど、途中で見るのを辞める人が少ない作品はないと思う。「1人の男が、棺の中で1時間半過ごすだけ」なのに見れてしまう、見せられてしまう強さが、この映画にはある。

この作品を通して、感じたことをリストアップしてみた。

  • 世界では、同様のテロがどれくらい起こっているのか?
  • もし、自分がテロに遭ったらどこに連絡をすればいい?
  • テロ対策班の電話応対技術は、どの辺が凄いのか?

これらの疑問に対する答えを、自分なりに用意した。

世界では、同様のテロがどれくらい起こっているのか?

典拠:http://honkawa2.sakura.ne.jp/9359.html

2019年に発表された、アメリカ政府による調査によると、全世界で年間1万件前後のテロ攻撃が発生し、2万~3万人の死者が出ているらしい。国別で見た死傷者を見ると、アフガニスタンが17000人で全体の7割弱を占め、シリアやナイジェリア、ソマリアなどが続く。中東やアフリカ地域がほとんどで、”普通の”日本人が訪れそうな国はフィリピンぐらい。ただ、下の図でも分かるように、近年はアメリカやヨーロッパでもテロが起こっている。ISによる犯行が目立ち、先進国で1億人の人口を抱える日本がこれまで一度も標的になっていないのが不思議とも思える。

出典:http://honkawa2.sakura.ne.jp/9359.html

これだけを見ると、日本国内にいれば安全だと言えなくもない。実際に、日本国内でのテロ行為は、一年にあるかないかのレアケース。2022年に起こった、安倍元首相の暗殺に象徴されるように、国家の要人を狙った政治犯が多い印象がある。また、国内での拉致は、北朝鮮と結びつけられる。現在17名が北朝鮮によって拉致されたと認定され、873名(2021年11月現在)が「北朝鮮による拉致の可能性を排除できない者」とされている。つまり、国内にとどまっていても拉致の危険性はゼロではないということ。

もし、自分がテロに遭ったらどこに連絡をすればいい?

作品と同じように、棺の中に監禁され、ケータイとライトなどが用意されていたらどうすれば良いか。この作品のように、ケータイを使って連絡を取るべきだろう。日本人である自分を助けてくれそうなところに。

ネットで調べた感じ、以下の番号が連絡先としてふさわしそうだ。

  • NGO連絡センター(代表:03-3580-3311(内線5867)、直通:03-5501-8374)
  • 領事サービスセンター他のサイトヘ(代表:03-3580-3311(内線2902、2903)、直通:03-5501-8162)

前者は「外務省におけるNGOに関する施策であってテロその他の重大犯罪対策以外のものについて」、後者は「テロその他の重大犯罪以外の安全対策や、一般的な治安情勢、トラブル対策等について」。文言ではどちらにかけるべきか分からないので、どちらかにかけてみて、担当に繋げてもらうという手順を取るのが良さそうだ。なお、海外から上の電話番号にかける時は、番号の前に「+81」が必要。「+」は0を長押しすると表示される。

作中でも男性が頻繁にかけていた「電話番号案内」。こちらの番号を覚えていた方が、汎用性が高い。国内からであれば「104」で繋がるが、海外からは一度「NTT東日本」にかける必要があるよう。国際電話有料 「+813 5785 5065」だそうだ。知恵袋の回答なので、あまり信頼できないが....。

テロ対策班の電話応対技術は、どの辺が凄いのか?

作品を見ていて、テロ対策班の電話応対の技術に舌をまいた。取り乱す主人公を上手くコントロールして誘導する。演技とは言え、おそらく現実の部署や担当者への聞き込みを基に行われたように感じを受ける。日常生活でも、泣きわめくパートナーや子供と通話する機会は起こり得る。そんな時に使えるように、作品での一時受電(最初の主人公とテロ対策班の会話)の内容を文字に起こしてみる。

ポールだね

(ああ)

話は聞いた。すでに君の救出に動き始めている。

(よかった)

支払い期限は夜9時か?

(そうだ)

時間的余裕はないな。今は生き埋め状態?

(棺の中だ)

わかった。携帯の電波が届くなら数十センチの深さだ。

(かもな)

バッテリーの残量は?

(半分以下だ)

そうか、なるべく節電しろ。電波を追って居場所を探す。着信の設定は?

(バイプだ)

着信音に変更しろ、その方が負荷が少ない。

(ジッポがある)

ライターか?酸素は?

(取り乱す)

心配ない。

(真っ暗だ)

棺の製造元とか何か手掛かりを探せ。

(急いでくれ)

手を尽くしている

(他に生存者は?)

運転手?

(そうだ)

確認できていない

(家族のために来たのに、なぜこんな目に)

不測の事態だ

(電話だ)

犯人か?

(そうだ)

番号は?教えろ

(そんなすぐにできるかよ)

もういい、電話に出ろ

担当者の発言だけに注目すると、だいたい以下の流れで誘導している。

  1. 名前の確認
  2. 既に救出がスタートしていることを伝える
  3. デッドラインの確認
  4. 現在位置の確認
  5. 携帯のバッテリー確認
  6. 節電を指示
  7. 手掛かりを見つけるよう指示

ポイントは、名前を確認してすぐに「すでに君の救出に動き始めている。」と伝えているところ。主人公に感情移入している時に、この言葉が聞こえてきてホッとした。頼もしくて、味方がこちらに向かってくれている安堵感を覚えた。「伝えることはちゃんと伝えて、且つ安堵させる言葉を届ける」。あたり前な感じがするが、結局シンプルに伝えるのが最善だということだろう。

あと、担当者の対応で光っていたのが「犯人は何者なんだ?」に対する返答。「我々と変わらない同じ人間だ」と答える。続いて、「テロリストだ」という返しに対しては、「違う。もし、君が家を失い食うにも困って、家族が路頭に迷ったらどうする?」と答える。意外だと思ったのは、テロリストを擁護する言い方をする点。徹底的に悪者だと伝えて「負けるな」と煽るのかと思ったが、「相手は同じ心の通った人間だ」と恐怖でいっぱいの被害者に包み込む。よくスポーツ漫画などで、試合前に「相手は同じ高校生だ」と顧問が生徒を励ますシーンがあるが、理屈としてはあれと同じなのだろう。「敵をどう形容するか」は、腕の見せ所であり、通話相手をコントロールする肝と言えそうだ。

 

棺と火と携帯電話。たった3つのアイテムだけでも、演出と演技次第で濃密な1時間半のドラマを魅せることができる。ハリウッド映画では見られない「規模に頼らない映像体験」を、是非一度堪能してもらいたい。布団をかぶった密閉状態で見ると、より没入感が増すのでオススメ。

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